議決権の信託

議決権の信託

議決権の信託は認められるのか?

 

下級審ですが問題の所在が分かりやすい判例をあげておきます。
(大阪高裁昭和 58 年 10 月 27 日決定(高等裁判所民事判例集 36 巻 3 号 250 頁))

 

事案

 

1 X株式会社は労使の合意で従業員持株制度を設けていた。

 

2 従業員持株制度は以下のようなものであった。

 

  @従業員は従業員持株会の理事との間で株式信託契約を結ぶ。

 

  A信託契約によって議決権は受託者である理事が行使する

 

  B配当請求権や残余財産分配請求権は委託者兼受益者である従業員に帰属する。

 

3 信託財産である株式の議決権数はは会社法上の検査役選任請求権行使のための議決権数   を充たしていた。

 

4 従業員らはX社の決算中に使途不明な部分があるとして検査役の選任を請求したがX社の  取締役はこれを拒否した。

 

 

争点

 

@株式のうち議決権(共益権)のみの信託は認められるか。

 

A株式を信託したとしても共益権を制限する信託契約は有効か。

 

結論

@の点
議決権(共益権)のみの信託は認められず、無効である。

 

Aの点
少なくとも不当な目的で委託者(受益者)に議決権及びそれに伴うその他共益権を認めないような信託契約は会社法の精神に反し無効である。
よって検査役選任請求は認められる。

 

コメント

 

@の点
信託財産は@換価性A積極財産性(債務信託財産にならない)B処分可能性C特定性などを充たす必要があります。

 

株式は会社に対する株主たる地位を表彰するものであり、その地位を構成する各種権利の一部のみを他人に処分することはできないとするのが一般的です。

 

Aの点
議決権のみを信託した場合とは異なり、判例の事案は株式自体を信託財産としたが、委託者兼受益者に議決権ないしそれに伴う共益権を認めていない事案です。

 

このような形で議決権を制限することは、総会ごとに代理書面を要求する会社法310条2項その他多数派の不当な会社支配を防止する会社法の各種規定に現れる会社法の精神に反しないかが問題となります。

 

判例は
本件の株式信託制度が会社側の関与で創設されたものであること。
本件の株式信託契約は株主の議決権を含む共益権の自由な行使を阻害するためのもの

 

という事案の内容から会社法の精神に反して無効としました。

 

判例は信託契約の成立の経緯や目的を問題として無効としているので、いわゆる議決権の信託というもの自体が無効となるものではないことが前提となっています。

 

従業員の主導で、かつ適正な目的で締結された信託契約や、委託者兼受益者に指図権をあたえて間接的に議決権等を行使できるなら有効と考えていいのでしょう。

 

中小企業庁も「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会」の中間整理で「非公開会社においては、議決権について株主ごとの異なる取扱い(いわゆる属人的定め)を定めることが認められており(会社法第109条第2項)、剰余金配当請求権等の経済的権利と議決権を分離することも許容されているため、複数の受益者のうちの特定の者に議決権行使の指図権を集中させても、会社法上の問題は生じない」として、少なくとも非公開会社では指図権の集約という形で議決権を制限するスキームを発表しています。

 

 

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