信託財産の処分と登記

信託財産の処分と登記

 

信託目録に「信託財産の処分には受益者の承諾を要する」というような記載がある場合の信託財産の処分についてポイントをまとめます。

 

登記は所有権移転及び信託登記抹消の同時申請です。

 

信託財産処分の論理

 

「信託行為において信託財産に属すべきものと定められた財産」(16条)は「受託者に属する財産」(2条3号)となりますから、所有権は受託者に帰属します。

 

「受託者は、信託財産に属する財産」の「処分」「をする権限を有する」(26条)のですから受託者は所有者として信託財産を処分します。委託者や受益者は所有権移転行為の当事者ではありません。

 

 委託者や受益者は代理や他人物売買の本人のようなものでなく、受託者が自分の財産を処分するという論理になります。

 

 また、信託は基本的に物権ではありません(そのような学説があるかもしれませんが)。信託法という特別法によって規定されている点のみ対世的効力を有するのであり、抵当権のように登記をすることで勝手に追及効が生じるわけでもありません。

 

 よって、信託財産を処分することで相手方が受託者になったり、信託契約の制限を受けたりすることにはなりません。

 

第三者の承諾を証する情報の要否

 

 受託者の権限は「信託行為によりその権限に制限を加えることを妨げ」ません(26条但書)。

 

 そして、「当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていた」又は「知らなかったことにつき重大な過失があった」場合には受益者が当該処分行為を取り消すことができます(27条)

 

 不動産登記令には「登記原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するときは、当該第三者が許可し、同意し、又は承諾したことを証する情報」を添付しなければならないことになっています。「登記原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するとき」は第三者の許可等がなければ、登記原因たる法律行為について取消事由が存することとなる場合を含むとするのが実務です。

 

よって、信託財産の処分に受益者の承諾を要するとするような制限が加えられている場合も「登記原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するとき」にあたり、受益者の承諾書を添付すべきかが問題となります。

 

 この点、先例はなく、書籍によっても結論が分かれています(あまり情報を追っていないので、もしかしたら、もう先例がでてるかもしれません。)

 

 条文の文言を形式的に見れば「登記原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するとき」にあたるとして、承諾書を必要とする考えもあるでしょう。

 

 しかし、受託者の権限の制限は信託契約等で私人が内部的に設定したものであり、これを設定したからと言って登記上の手続きまで反映させる必要があるかは疑問があります。

 

 また、制限は信託契約等で自由に定められるので、例えば「AさんとBさんが結婚したとき」とか、「CAPレートが〇%になったとき」とかいう定めのときは当然添付すべき書面はありません。たまたま受益者の承諾という制限の場合のみ承諾書を要求し印鑑証明を要求することは疑問が残ります。

 

 実際、@「AさんとBさんが結婚したとき」でかつA「受益者Pの承諾があったとき」というような制限が加えられている場合には@について戸籍と本人確認を要求することはないので、Aだけチェックしても法律行為が真正か否かはわかりません。

 

 よって、個人的には不要としたいところです。実際添付不要で登記した場合もあります。

 

 

ロゴ

 

 

 

 

 

 

 

関連ページ

信託とはどんな仕組みなのか
信託という制度について大まかなイメージを伝えるための記事を掲載しています。
信託と判例
信託と事業承継
信託が事業承継に使われる場面は具体的にどのような場合なのかについての記事を掲載しています。
民事信託を利用する際の注意点
民事信託を利用する場合によくある誤解や注意すべき点について説明しています。
信託で節税?
信託で節税できるのでしょうか。その方法は具体的にどのようなものなのかについて説明しています。
信託活用事例
不動産登記 会社法人登記 信託 成年後見 相続 渉外登記
議決権の信託
事業承継スキームで提唱されている議決権の信託が問題となった判例を掲載しています。

ホーム RSS購読 サイトマップ