親族後見人も業務上横領の刑が科される

後見と判例B 親族後見人と業務上横領

親族後見人と業務上横領罪

 

平成24年10月9日 最高裁判所第二小法廷業務上横領被告事件

 

認知症等で財産管理が出来ない親族の財産を管理する者が、その財産を自己のために処分すれば横領罪が成立します。

 

もっとも、配偶者、直系血族、同居の親族である場合は刑が免除され、それ以外の親族は告訴がなければ公訴を提起できないことになっています(刑法244条 もちろん民事上の責任を免れることはできません。)。

 

では、親族が後見人である場合も刑の免除等を受けることはできるのでしょうか。

 

判例の結論

 

横領を行った親族が後見人である場合は刑の免除等をうけることはできません。

 

関係する条文

 

253条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

 

255条 第二百四十四条の規定は、この章の罪について準用する。

 

244条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

 

2  前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 

3  前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

 

判例の考え方

 

ほとんどの判例は244条が刑の免除等を認めた趣旨を、政策的なものと考えています。

 

つまり、親族間内で横領が行われた場合、その処理を親族間の自律的判断に委ねるべきだという考えです。

 

この立場からすると、刑の免除等が認められるか否かは、親族が後見人でもある場合にまで親族間の犯罪といえるかという点がポイントになります。

 

 

 

houterasu

 

 

 

そして、最高裁は親族間の犯罪といえるか否かを次のように説明しています。

 

最高裁平成24年10月9日判決の説明

 

「家庭裁判所から選任された成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって,成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っているのであるから,成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,同条項を準用して刑法上の処罰を免除することができないことはもとより,その量刑に当たりこの関係を酌むべき事情として考慮するのも相当ではないというべきである」

 

@親族間というのは私的な関係の一場合である。
A後見人の事務は公的性格を有する、つまり私的なものではない。
Bよって、後見人の事務が関わる以上もはや親族間における犯罪とも言えない
という理屈だと思われます。

 

下級審の説明

 

最高裁の判例は少し簡潔すぎてわかりにくいかもしれません。そこで別事件ですが、もう少し具体的に保護法益からの分析をしている下級審の考え方を示しておきます。

 

@横領罪は所有権その他の本権のみならず、信頼関係害さないことも保護法益としている。

 

A後見人は家庭裁判所によって選任され被後見人の財産を管理処分し、これについて報告するなど、家庭裁判所との間の信頼関係が成立している。

 

Bたとえ親族間の横領であっても、後見人は家庭裁判所への信頼関係を破壊している。

 

Cよって、もはや親族間の犯罪とは言えず、免除等は認められない。

 

 

もっとも、この論証の仕方だと親族間における犯罪といえるかどうかは、保護法益の侵害が親族間に限られる場合であるというような暗黙の前提が設定されているようにも見えます。

 

 

免除等の趣旨が政策的配慮とした以上(つまり、違法性減少ではない)、保護法益は直接の問題とはなりません。

 

最高裁としては未知の事例に対処するためにあえて判断基準を狭めることを避けたのかもしれません。

 

 

 

 

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