成年後見Q&A
以下特に記載がない限り法定成年後見の記事であり、保佐、補助を含みません。
成年後見制度はどのような場合に利用できますか
本人が精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある場合に利用できます(民法7条)。
事理を弁識する能力とはどのような能力ですか
事理を弁識する能力を欠く常況とは法律行為の結果について認識し、判断することができる能力をいいます。
たとえば売買契約をすることによって得るものと失うものを認識でき、その利得損失を計算し、合理的な判断ができるような能力です。
認知症で計算ができなかったり、契約の当事者が認識できなかったり、売買対象物が何なのか答えられない場合は法律行為の結果について認識しているとは言えないでしょう。
事理を弁識する能力を「欠く常況」とはどのような場合ですか
一時的に事理弁識能力が回復することがあっても、通常時において事理弁識能力がないならば「欠く常況」といえます。
逆に、一時的に事理弁識能力が回復する可能性をみとめているからこそ、本人の後見申し立て等が規定されていると言えます。
成年後見制度を利用するには申立てが必要ですか
申立てが必要です。裁判所が勝手に後見を開始してくれたりはしません。
成年後見制度を利用するためにはどこに申し立てが必要ですか
被後見人となる者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があります。
成年後見の申立から成年後見の開始までどれくらいの期間がかかりますか
事案によって様々で一定の期間は定められていません。
ただし、約8割の事件が2か月以内に後見を開始しています。
直ちに後見を開始しないと本人の財産に損害が生じる恐れがあります
後見開始の審判前の保全処分という緊急のための制度があります。
成年後見制度を利用するための申立て手続きにどのような費用がかかりますか
印紙代、診断料等、また申立てを司法書士に頼む場合には申立て報酬と実費などがかかります。
成年後見制度を利用したいのですが、誰でも申し立てることができるのですか
できません。
申立できる人は法定されています。具体的には本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官です。
また、市町村長にも申立がみとめられています。
後見開始の申立の取り下げは自由にできるのですか
できません。家庭裁判所の許可が必要です。
本人の財産管理のために後見制度の利用が必要であるにもかかわらず、家族が後見人に選ばれないことを理由として取り下げるなどの濫用的取り下げを防ぐためです。
成年後見人はどのように選ばれるのですか
家庭裁判所が職権で選任します。
家族を成年後見人にするように指定することはできますか
できません。
成年後見人は家庭裁判所が職権で選任します。申立人が指定することはできません。
もっとも、申し立てにおいて候補者を伝えることはできます。
しかし、ある程度財産がある人などに対する後見人は横領等を防止するため家族ではなく専門職後見人(弁護士 司法書士 社会福祉士)が選任されることが多いようです。
成年後見が開始するとその旨が戸籍に記載されてしまうのですか
戸籍には記載されません。
法務局に成年後見登記がされることになりました。
成年後見の登記は自分でしないといけないのですか
自分でする必要はありません。家庭裁判所の書記官が登記所に嘱託します。
子や兄弟は被後見人に対して介護費用を請求することはできますか
原則としてはできません。
民法上、直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務があるからです(民法877条)。
もっとも通常の扶養を明らかに超える程度の介護をした場合には介護費用を請求できる可能性があります。
成年後見が開始すると本人(被後見人)にはどのような影響があるのですか
被後見人は行為能力を制限されます。
具体的には被後見人がした契約は取り消すことができます。
また一定の職業等において欠格事由に該当することになり、その職に就くことができなくなります。
たとえば、税理士 司法書士 弁護士等になることができなくなります。
成年後見人の資格に制限はありますか
あります。
欠格事由が設けられており下記の場合は成年後見人になることができません
民法
第八百四十七条 次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者
成年後見人は1人でなければならないのですか
いいえ。1人の被後見人に対し複数の成年後見人を選任することも可能です(民法843条第3項)
法人が成年後見人になることはできますか
できます(民法843条第4項)
後見監督人はどのように選ばれますか
必要と認めるときに家庭裁判所が職権で選任します。
後見人はどのような職務を行うのですか
被後見人の財産管理や療養看護を行います。
療養看護とは本人の介護契約,施設入所契約,医療契約等についての代理権を行使するなど、法律行為を行うことが中心であり、具体的な看護を行うことは職務ではありません。
後見人は財産管理をおこなうためにどのような権限が与えられていますか
財産に関する法律行為について与えられた包括代理権があります(民法859条)
また、被後見人の行った法律行為の取消権や追認権が与えられています(民法9条)。
後見人の代理権に制限はないのですか
あります。
居住用財産の処分については家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法859条の3)
被後見人所有の実家が空家になっています。居住用財産にあたりますか
あたる可能性があります。現に居住していなくても将来において居住する可能性があれば居住用とされます。
後見人は遺産分割協議に参加することができますか
できます。
ただし、後見人自身が相続人でもある場合は利益相反行為にあたることから後見人として参加することはできません。
身分行為について代理はできますか
できません。
身分行為は一身専属的な行為であり後見人が代理することはできません。
後見人は訴訟行為について代理することができますか
できます(民事訴訟法28条)。
なお、身分行為については職務上の当事者となることができる場合があります(人事訴訟法14条)
相続税対策のために被後見人の財産を管理処分することはできますか
できません。
相続税は相続人が払うものであり、被後見人の利益となる行為ではないからです。
成年後見人は被後見人の医療行為について同意権がありますか
ありません。
成年後見人は医療契約の締結行為について代理できますが、医療行為自体の同意権はありません。
自己の身体にたいする医療侵害についての同意権は一身専属的なものだかからです。
財産の管理とは具体的にどのような行為をさすのですか
財産の管理とは財産の保全(家屋の補修など)、性質を変えない範囲での利用改良行為が中心であるが、必要な場合には財産の処分行為も含まれます。
ただし、居住の用に供する建物又はその敷地の処分には家庭裁判所の許可が必要です(859条の3)
被後見人所有の家屋に担保を設定することも居住用不動産の処分にあたりますか
あたります。担保の実行により他人の所有物になる可能性があり、売却と同様家庭裁判所の許可が必要となります。
被後見人所有不動産を他人に無償で貸す場合にも裁判所の許可が必要ですか
必要です。
使用貸借は一般的な「処分」の概念にはいりませんが、後見人の代理権を画する概念としての居住用財産の「処分」には使用貸借も含まれます。
なぜなら許可は本人が以後居住する場所がなくなることを防止することが趣旨だからです。
被後見人の財産管理として預貯金を投資にまわすことはできますか
預貯金より安全な投資でない限り難しいでしょう。そして預貯金より安全な投資が考え難いことから被後見人の財産を投資に回すことは無理でしょう。
被後見人である父がした土地の購入は取り消せますか
取り消せます。
成年被後見人のした法律行為は後見人が取り消すことができるのが原則です。
ただし日用品の購入その他日常生活に関する行為については取り消すことができません(民法9条)
後見人の身上配慮義務とはどのような義務ですか
後見人の身上配慮義務とは、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない義務をいいます(民法858条)
具体的には医療に関する契約をしたり、支払いをしたり、介護施設の入所契約をしたりすることです。
ここで身上配慮義務に基づいて行うべき行為は法律行為に限られ事実行為は含まれませ。実際に介護を行う義務があるわけではありません。
成年後見人の就任時にはどのような行為をする必要がありますか
財産目録の作成や費用の予定の算出等が必要です。
成年後見の職務は誰がチェックするのですか
家庭裁判所が定期的に報告を求め職務を監督していまうす。
また、司法書士の場合はリーガルサポートという独自の団体を作り更に厳重な監督をしています。
さらに、後見監督人が選任され、後見人の職務を監督する場合もあります。
後見監督人はどのような場合に選任されるんのですか
必要があると認めるときに、家庭裁判所が選任します(民法849条)。
必要があると認めるときとは、資産の種類や額が大きいときや親族間に争いがあるときなどがかんがえられます。
後見監督人は複数選任されることがありますか
あります(民法852条・876条の3第2項・867条の8第2項)
後見監督人の欠格事由にはどのようなものがありますか
後見人と同様の欠格事由のほか、後見人の配偶者、直系血族、兄弟姉妹も後見監督人にはなれません。
後見人と上記のような関係にある者によっては実効的な監督が期待できないからです。
後見監督人はどのような手続きで選任されます
親族または後見人の申立あるいは家庭裁判所の職権で、家庭裁判所の審判により選任されます(民法849条)
後見はどのような場合に終了しますか
後見開始の審判が取り消されたり、本人が死亡した場合に終了します。
後見が終了したときどのような事務が必要ですか
家庭裁判所への報告、後見事務によって生じた財産の変動等を明らかにすること、財産の返還などの事務が必要となります。
後見が終了したとき後見終了の登記をする必要がありますか
あります。
本人が死亡した場合における後見終了の登記は嘱託によってはなされず、成年後見人、本人、親族等が申請する必要があります。
ただし、後見開始の審判の取消しの審判がなされた場合は嘱託によって登記がなされます。
関連ページ
- 任意後見Q&A
- 任意後見制度のよくある質問を掲載しています。
- 後見と判例@ 認知症JR東海事件
- 後見と判例A 追認の基準
- 事実上の後見人が行った行為について、いかなる基準で追認、追認拒絶を判断すべきかについて解説しています。
- 後見と判例B 親族後見人と業務上横領
- たとえ親族でも後見人になった場合は刑の免除は認められない判例を説明します。
- 後見と判例C 後見申立てと時効停止
- 成年後見の審判が開始される前でも、時効停止の規定を類推適用できるとした判例を解説しています。
- 任意後見制度の概要
- 任意後見制度の大まかな仕組み。任意後見制度がなぜ生まれてきたのかについて説明しています。