任意後見制度の概要

任意後見制度の大まかな仕組み

 

任意後見は簡単にいうと、自己の判断能力が十分あるうちに、財産の処分方法や将来後見人になってもらう人を決め、その人と委任契約を結んでおくことを言います。
このような任意後見契約に一定の要件や効果を付与することで安全で使いやすい仕組みにしたものが任意後見制度です。

 

特徴を簡単に列挙すると

 

法定後見とちがって、基本的には私人間の契約です。

 

判断能力があるうちに締結する必要があります。

 

任意後見人になる人や財産の処分方法は自分で決められます。

 

一般の契約と異なり、方式、要件などに一定のルールがあります。

 

任意後見人は任意後見監督人を通じて裁判所のコントロールを受けます。

 

 

任意後見制度が必要な理由

具体的な事例を想定してみます

 

Aさんの父親は戸建ての家に一人暮らしをしているが、最近元気がなく認知症を発症しているのではないかと不安に思っていた。
Aさんは父親が認知症になり施設入所する必要が出てきた時には実家を売却して入所費用に充てたいと考えていた。
認知症を発症し、法定成年後見制度を利用すると費用もかかるし、お金を自由にできないと考えたAさんは今のうちに実家売却の代理権をもらっておけばいいと考えた。
Aさんは父親を強引に説得し、委任状に実印をついて署名してもらい、所持していた。
1年後、Aさんの父親は判断能力が著しく低下し、施設入所が必要になった。
Aさんはもらっておいた委任状で実家を売却できるのか?

 

民法上、委任者の意思能力の喪失は代理権の終了事由とされていません。
とすれば、Aさんは代理権に基づいて実家を売却できるようにも思えます。

 

被後見人の保護

しかし、Aさんの父親は本当に真意から委任状にハンコを押したのでしょうか?第三者の立会がなく作成された委任状からは父親の真意は推察するとこはできません。
また、すでに意思能力が低下した父親はAさんの行為をチェックしコントロールすることもできません。
さらに、このような簡単な手段で売却ができるなら、誰も法定後見制度を利用しなくなるかもしれません。
司法書士も本人の意思確認ができない以上、登記することはできないでしょう。
このように民法上の委任契約を使うことは問題があります。

 

意思決定の尊重

他方、法定後見制度は法律により定められた制度であり、各人個別具大的な事情はなかなか考慮できません。被後見人は経済学上の合理的経済主体のような意思の下に行動することが想定されているからです。
しかし、判断能力が十分あった段階で自己の意思能力が低下した場合の財産の処分方法について自由に設計しておくことも認められるべきでしょう。

 

そこで、本人の保護と意思決定の尊重という二つの要請をみたす折衷案として任意後見制度があります。つまり、私人間の委任契約について法律上一定の枠をはめて2つの要請を調和させようという制度です。

関連ページ

成年後見Q&A
成年後見制度のよくある質問と回答を掲載しています。
任意後見Q&A
任意後見制度のよくある質問を掲載しています。
後見と判例@ 認知症JR東海事件
後見と判例A 追認の基準
事実上の後見人が行った行為について、いかなる基準で追認、追認拒絶を判断すべきかについて解説しています。
後見と判例B 親族後見人と業務上横領
たとえ親族でも後見人になった場合は刑の免除は認められない判例を説明します。
後見と判例C 後見申立てと時効停止
成年後見の審判が開始される前でも、時効停止の規定を類推適用できるとした判例を解説しています。

ホーム RSS購読 サイトマップ