任意後見Q&A
任意後見と法定後見はどのような違いがあるのですか
もっとも大きな違いは、法定後見が法律によって要件や効果が定められる制度であるのに対し、任意後見は基本的には当事者の契約である点です。
任意後見契約とはどのような契約ですか
本人の精神上の障害により判断能力が低下後の後見事務を判断能力低下前に委託する委任契約です。
任意後見と信託はどのような点が違うのですか
信託は財産を管理処分する者たる受託者に財産の所有権が移転します。任意後見はあくまで財産の所有権は本人に帰属したまま変わりません。
任意後見が当事者の契約であるならば内容を自由に定めてもよいのですか
自由に定めることはできません。
たしかに、私的自治、契約自由の原則からすれば契約の内容は当事者が自由に定めてもよいはずです。
しかし、後見契約においては被後見人の判断能力が不十分であり後見人による権限の濫用のおそれがあります。
そこで、任意後見契約においてその方式、効力などを制限し、被後見人の保護を図ろうとしたのが任意後見契約に関する法律です。
任意後見契約においてはどのような行為を委任できますか
財産管理処分のための法律行為のみならず、登記、供託、税の申告など公法上の行為も委任の対象になります。
これに対し事実行為の委任はできません。したがって、介護行為等は委任できません。
死後の事務を委任できますか
できません。
本人の死亡により委任契約は終了し、一切の相続財産は相続人に移転するからです。
任意後見契約をせずとも単に委任契約を結んでおけばよいのではないですか
たしかに、日本の民法上形式的には本人が意思能力を欠いたとしても代理権は消滅しないと思われます(民法111条)。
しかし、本人が意思能力を喪失した状態で代理行為ができるかについては争いがあります。また、委任契約の成立が本人の真意に基づいていたかについても問題にされる可能性が高いと思われます。
よって、本人が意思能力を喪失した後に単なる委任契約に基づく代理権によって財産を処分することは難しいと思われます。
任意後見契約はどのような方式でする必要がありますか
公正証書にて作成する必要があります。
任意後見契約は登記されますか
されます。公正証書を作成した公証人が登記所に嘱託します。
任意後見契約において必要な定めは何ですか
任意後見監督人の選任をもって効力が生ずる定めが必要です。
任意後見監督人は当事者が定めることができますか
できません。任意後見監督人の選任は裁判所の専権です。
任意後見の効力発生時期はいつですか
任意後見監督人が選任されたときです。
任意後見監督人の選任は職権によってなされますか
いいえ。家庭裁判所に申し立てることが必要です。
任意後見監督人の選任の申立はどのような場合にすることができますか
任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときに申立をすることができます(任意後見契約に関する法律第4条1項)
本人、親族、任意後見受託者などが申し立てできます。
検察官は任意後見監督人の選任申立ができますか
できません。法制化の過程で見送られました。
任意後見監督人選任の申立に本人の同意は必要ですか
必要です。
もっとも、本人がその意思を表示することができないときは同意は不要です(任意後見契約に関する法律第4条3項)
任意後見の開始によって本人の行為能力は制限されますか
されません。法定後見のような取消権の定めはありません。
任意後見人にはどのような権限がありますか
任意後見は「契約」なので任意後見契約の内容に従った代理権等があることになります。
任意後見の効力発生前に任意後見契約を解除することはできますか
できます。
任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができます(任意後見契約に関する法律第9条1項)
任意後見契約は委任契約としての性質を持つ以上、本人の意思能力、行為能力がある限りいつでも解除できるのが原則ですが、公証人の認証をうけた書面を要求して法律関係の明確化を図っています。
任意後見人になるのに特別な資格が必要ですか
不要です。ただし欠格事由にあたれるときは任意後見人になることはできません。
任意後見人の欠格事由は法定後見人と同じもののほか、本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族や不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者も任意後見人にはなれません(任意後見契約に関する法律第4条1項)
法人も任意後見人になることができますか
できます。法人の任意後見人を禁止する規定はありません。
任意後見人を複数選任することはできますか
できます。任意後見人の人数に制限はありません。
任意後見の効力が発生してしまうと、もう解除はできないのですか
できます。
本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができます(任意後見契約に関する法律第9条2項)
任意後見人には訴訟代理権がありますか
委任を受けた行為について当然訴訟代理権を付与するような規定はありません。
もちろん委任の内容として訴訟代理権を委任することは可能です。
ただし、訴訟代理ができるのは弁護士と認定司法書士等に限られます。
任意後見人は裁判所対する報告義務がありますか
原則としてありません。任意後見人は任意後見監督人に対して事務の報告をする必要があります。
任意後見監督人は裁判所に対する報告義務がありますか
あります。任意後見監督人が任意後見人の事務の監督を報告することで、裁判所は任意後見人を間接的にコントロールすることになります。
任意後見人にはどのような義務がありますか
委任契約の受任者として当然善良なる管理者の注意義務があることに加え、委託に係る事務を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない義務があります(任意後見契約に関する法律第6条)。
任意後見人は報酬を請求することができますか
できます。任意後見契約の内容として報酬の定めをおくことができます。
任意後見人を解任することはできますか
できます。
任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときに解任できます。
任意後見人の解任は意思表示のみでできますか
できません。
本人や親族の申立により家庭裁判所が解任します(任意後見契約に関する法律第8条)。
検察官は任意後見人の解任請求ができますか
できます。
任意後見人の不正な行為には横領背任などの刑事犯罪が含まれている可能性があり、検察官にも解任請求が認められました。
裁判所は職権により任意後見人を解任できますか
できません。
裁判所の職権による任意後見人の解任請求は認められていません。任意後見契約において裁判所は任意後見監督人を通じた間接的なコントロールをするのみだからです。
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