信託で節税?
複層化された受益権を利用して相続税を節税しようというスキームが提唱されることがありますが、どういう仕組みなのでしょうか?
受益権が複層化されるとは、信託受益権が収益受益権と元本受益権に分割されることをいいます。
それぞれの定義は
収益受益権 信託財産の管理および運用によって生ずる利益を受ける権利
元本受益権、信託の終了の場合の信託財産の帰属の権利
では、実際にはどのようなスキームを組むのでしょうか?
(事案)
@受益権を収益受益権と元本受益権に分ける
A委託者および収益受益権の受益者を父親とし、受託者および元本受益権の受益者を子とする信託契約を締結
よって元本受益権を無償で取得した場合は元本受益権の価格に贈与税がかかってきます。
では元本受益権の価格はどのように算出するのでしょうか?
国税庁の財産評価基本通達では次のようなルールが規定されています。
(信託受益権の評価)
202 信託の利益を受ける権利の評価は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところによる。(平11課評2-12外・平12課評2-4外改正)
(1) 元本と収益との受益者が同一人である場合においては、この通達に定めるところにより評価した課税時期における信託財産の価額によって評価する。
(2) 元本と収益との受益者が元本及び収益の一部を受ける場合においては、この通達に定めるところにより評価した課税時期における信託財産の価額にその受益割合を乗じて計算した価額によって評価する。
(3) 元本の受益者と収益の受益者とが異なる場合においては、次に掲げる価額によって評価する。
イ 元本を受益する場合は、この通達に定めるところにより評価した課税時期における信託財産の価額から、ロにより評価した収益受益者に帰属する信託の利益を受ける権利の価額を控除した価額
ロ 収益を受益する場合は、課税時期の現況において推算した受益者が将来受けるべき利益の価額ごとに課税時期からそれぞれの受益の時期までの期間に応ずる基準年利率による複利現価率を乗じて計算した金額の合計額
(3)の部分が該当部分になります。少しややこしいので、これを図式化します。
(なお、基準年率がとても低いので、複利原価率のくだりは無視しても本質的な理解には関係ありません。)
エクセルで実際に収益受益権の価格を計算してみます。
(事案)
信託財産の価格 1億円
利回り6%
基準年率 0.5%
信託の存続期間 15年
発生年度 | 各年度の収益 | 割引率 | 収益の割引現在価値 |
---|---|---|---|
1 | \6,000,000 | 0.995024876 | 5,970,149 |
2 | \6,000,000 | 0.990074503 | 5,940,447 |
3 | \6,000,000 | 0.985148759 | 5,910,893 |
4 | \6,000,000 | 0.980247522 | 5,881,485 |
5 | \6,000,000 | 0.975370668 | 5,852,224 |
6 | \6,000,000 | 0.970518078 | 5,823,108 |
7 | \6,000,000 | 0.96568963 | 5,794,138 |
8 | \6,000,000 | 0.960885204 | 5,765,311 |
9 | \6,000,000 | 0.95610468 | 5,736,628 |
10 | \6,000,000 | 0.951347941 | 5,708,088 |
11 | \6,000,000 | 0.946614866 | 5,679,689 |
12 | \6,000,000 | 0.94190534 | 5,651,432 |
13 | \6,000,000 | 0.937219243 | 5,623,315 |
14 | \6,000,000 | 0.932556461 | 5,595,339 |
15 | \6,000,000 | 0.927916877 | 5,567,501 |
収益受益権価格 | 86,499,748 |
よって、元本受益権の価格は
100,000,000-86,499,748=13,500,252円
15年経って収益受益権が消尽したあとに信託が終了すれば結局1350万円に対する贈与税のみで済んだことになります。
こんなことが起きるのは、収益受益権だけ、将来予想収益の総額というような評価の仕方をもってきたからです。
また、上記に加え、節税をうたうスキームでは満室前提の収益が15年続き、空室その他のリスクは全く考慮せず、常に一定の収益がえられるという前提に立ち、割引は基準年利率のみを使用しているからです。
信託財産は多様であり、収益受益権の評価をするための割引率のところにリスクレートを画一的に乗せることは不可能ですから、当然各年度の収益はそれらのリスクその他を反映させた額を記載することを要求されていると考えるのが妥当でしょう。
実際の適用のためには事案に応じた精査が必要になります。
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