フィリピン非嫡出子の代襲相続権

鉄のカーテン判決(非嫡出子の代襲相続権)

フィリピンには”鉄の障壁”あるいは”鉄のカーテン”と呼ばれるルールがあります。
嫡出関係と非嫡出関係の分断するルールです。
以下ではこの鉄のカーテンルールが問題になった最高裁判決の要旨をご紹介します。

 

原文はこちら(ARELLANO司法財団 LAWS AND JURISPRUDENCE DATEBANK)

 

事実の概要

被相続人Aには嫡出子Bがいた。

 

Bには非嫡出子である子X1からX6までがいた。

 

嫡出子Bは被相続人Aの死亡時にはすでに死亡していた。

 

被相続人Aの配偶者や尊属(被相続人Aと姉妹Cの両親及びその他の尊属)はすでに死亡していたが、姪にあたるYがいた。

 

Yの母親つまり被相続人Aの姉妹Cはすでに死亡していた。

 

以上のような事実の下、Aの孫にあたるXらが相続人となるかが争われた。

 

問題となった条文

Article 992. An illegitimate child has no right to inherit ab intestato from the legitimate children and relatives of his father or mother; nor shall such children or relatives inherit in the same manner from the illegitimate child.
非嫡出子は無遺言相続(法定相続)において、嫡出子及びその両親の親族から相続する権利を有しない。また、嫡出子も同様に非嫡出子から相続する権利を有しない。

 

Article 902. The rights of illegitimate children set forth in the preceding articles are transmitted upon their death to their descendants, whether legitimate or illegitimate. (843a) 先に規定された非嫡出子の権利はその者の死亡によって嫡出又は非嫡出の卑属に相続される。

 

Article 982. The grandchildren and other descendants shall inherit by right of representation, and if any one of them should have died, leaving several heirs, the portion pertaining to him shall be divided among the latter in equal portions. (933) 孫とその卑属は代襲によって相続する。そのうちの一人が死亡して、他の相続人が残った場合は、その者たちにより均等に分割される。

 

Article 989. If, together with illegitimate children, there should survive descendants of another illegitimate child who is dead, the former shall succeed in their own right and the latter by right of representation.
非嫡出子及び非嫡出子の子がいる場合、前者は自己の権利で相続し、後者は代襲によって相続する。
Article 990. The hereditary rights granted by the two preceding articles to illegitimate children shall be transmitted upon their death to their descendants, who shall inherit by right of representation from their deceased grandparent. (941a) 前2条によって認められた非嫡出子の法定相続権は、その者の死亡により、その者の卑属が代襲により祖父母から承継する。

 

問題の所在

992条によると非嫡出子は嫡出子及びその両親の親族からの法定相続ができないとされています。嫡出子の両親は非嫡出子の親ですからその者からの相続はできますが、その親族からは相続できないという規定になっています。

 

この、親族に非嫡出子の親の尊属、つまり祖父母まで含まれていると孫は代襲相続ができないことになります。

 

そこで、992条のrelatives(血族、親族)に祖父母まで含まれるのかが問題となりました。

 

上訴人は上に示した902条、982条、989条、990条が代襲を認めていることから、祖父母は親族に含まれないとして代襲を認めるべきとの主張をしました。つまり、992条は他の条文との関係から制限解釈するべきであるとの主張です。

 

最高裁の判断

しかし、最高裁はこれを否定しました。

 

要旨は

 

@902条、989条、990条は代襲される者が非嫡出子であることを前提とした規定であり、本件のように代襲されるものが嫡出子である場合を規定したものでない。

 

A982条は嫡出親子関係にある親とその尊属からの代襲までを認めたものでなく、そのような事案は992条で無視されるべきものである。

 

そして、992条のrelatives は制限解釈すべきでなく、文言通り祖父母も含めると解すべきである。

 

以上により、本事案においては、Xらは相続人とはならず、被相続人Aの姪であるYが唯一の相続人となる。

 

 

血のつながりがあるのに一切代襲が認められないというのは非嫡出子に対してかなり厳しい判決です。

 

フィリピンはカトリックの総本山であるバチカン市国を除いて唯一離婚を認めない国となっています。

 

昔のローマカトリック教会は非嫡出子に対してかなり厳しい態度をとっていたようです。

 

カトリック教徒の多いフィリピンという国の特徴が表れている判決と言えるのかもしれません。

 

 

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